近頃、暑い、寒い、雨だ、風が強いと言って、外を歩かない日が4~5日続くことがあります。
外出して、普通に歩くと息切れがすることがあります。そのときは、少しゆっくりと歩いてから、普通の速度で歩きますと、息切れがしなくなります。
今回は息切れの源である心肺機能について、検討してみました。
1. 心肺機能とは何か
1.1. 心臓と肺の機能
①心臓機能
心臓機能は、血液を酸素や栄養素を細胞に運び(動脈)、老廃物や二酸化炭素を回収する(静脈)ためのポンプの役割を果たします。
②肺機能
肺機能は、呼吸機能のことで、呼吸によって酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を体外に排出するガス交換の役割を果たします。
③心肺機能
心肺機能は、心臓と肺(呼吸)が相互に連携し、必要な酸素を体内に取り込み、それを全身に送り込むと同時に、体内に発生した老廃物と二酸化炭素を体外に排出します。
【呼吸について】
呼吸は、二酸化酸素を吐いて、酸素を吸います。
「呼吸」という文字は、「吸呼」と文字を逆に書きません。これは、吐けば自然に吸えるという摂理の法則に従っています。
「努力するから成果が得られる」のも同じ法則によります。
【心肺停止】
事故などで、心肺停止で病院に緊急搬送されたという報道を聞いたり見たりすることがあります。その後、死に至ることが多いようです。
この心肺停止(CPA)とは、心臓のポンプ機能と肺の呼吸機能が停止し、全身への血液循環が途絶える状態のことです。
2. 高齢者の心肺機能低下による現象
高齢者の心肺機能は、加齢に伴い低下します。この心肺機能の低下は、心臓や肺(呼吸)の機能の衰え、身体活動量が減少し、日常の「生活の質(QOL)」を低下させます。
2.1. 心臓機能低下による現象
① 心拍出量の低下
心拍出量の低下は、心臓が1回の拍動で送り出す血液の量が低下することです。
これにより、全身への酸素供給が不十分になり、疲れやすさや脱力感を感じやすくなります。
② 最大心拍数の低下
最大心拍数の低下は、心臓が1分間に拍動できる回数の上限が低下することです。
このことは、心臓のポンプ機能の低下することを現します。
③ 心筋の機能低下
心筋の機能低下は、心臓が肥大し、心臓の筋肉の壁が厚く硬くなり、心室に十分な血液が満たされなくなることです。
これにより、心不全(拡張性不全など)を引き起こす可能性があります。
④ 不整脈の増加
不整脈とは、心臓の拍動のリズムが正常でなくなる状態のことです。脈が速すぎたり、遅すぎたり、不規則になったりします。
不整脈の増加することによって、動悸、息切れ、めまい、失神などを引き起こすこともあります。
不整脈の増加の原因は、心臓の病気やストレスや疲労などで起こります。
⑤ 血管の弾力性の低下
血管の弾力性の低下は、動脈の壁が厚く硬くなることです(動脈硬化)。
これにより血圧が上昇しやすくなります。
2.2. 肺(呼吸)機能低下による現象
① 最大酸素摂取量の減少
最大酸素摂取量の減少は、身体が取り込んで利用できる最大の酸素量が減少することです。
これにより、全身の持久力を低下させ、少しの運動でも息切れしやすくなります。
② 肺活量の低下
肺活量の低下は、肺が出し入れできる最大の空気量(肺活量)が減少することです。
これにより、呼吸が浅くなります。
③ 呼吸筋の筋力低下
呼吸筋の筋力低下は、呼吸に必要な筋肉(横隔膜や肋間筋など)の働きが低下することです。
これにより、効率の良い呼吸がしにくくなります。
④ 肺の弾力性低下
肺の弾力性低下は、肺が膨らんだり縮んだりする弾力性が失われることです。
これにより、酸素と二酸化炭素の交換効率を低下させます。
⑤ 動脈血酸素分圧の低下
動脈血酸素分圧の低下は、血液中の酸素濃度を低下させることです。
⑥ 痰の排出能力の低下
痰の排出能力の低下は、咳をする力が弱くなり、痰が排出されにくくなることです。
2.3. 身体活動量低下による現象
「身体活動量低下による現象」とは、日々の身体活動量が減ることで、いろいろな現象が現われます。
(1)身体機能の低下
① 筋力・筋肉量の減少(サルコペニア)
・ 立つ、歩く、階段を上るなどの日常動作が疲れやすくなる。
・ 重いものが持ち上げ下ろしがしにくくなる。
・ 転倒しやすくなる(特に下肢の筋力低下が顕著)。
・ 筋肉は1日寝ているだけでも0.5%程度減少すると言われている。たった数日間だけでも体を動かさないと大幅に筋力が低下。
② 全身持久力の低下
・ 少しの活動で息切れや疲労を感じやすくなる。
・ 以前は楽にできていた家事、仕事、外出などに負担を感じる。
③ 骨密度の低下(骨粗鬆症の増加)
・ 骨は、適度な負荷がかかることで強くなる。身体活動量が減ると骨への刺激が少なくなり、骨密度が低下しやすくなる。「かかと落し」で、骨密度を改善できる。
・ 骨折のリスクが高まる。
④ 関節の拘縮・可動域の制限
・ 関節を動かさないでいると、関節が硬くなり、動きが制限されることがある。
⑤ バランス能力の低下
・ ふらつきやすくなり、転倒リスクが増加する。
⑥ 心肺機能の低下
・ 心臓や肺の機能が効率的に働かなくなり、疲れやすさや息切れにつながる。
(2)生活習慣病の症状の拡大
① 肥満(特に内臓脂肪の蓄積)
・ 消費エネルギーが減るため、摂取カロリーが同じでも脂肪が蓄積しやすくなる。内臓脂肪の蓄積は、生活習慣病の大きな原因。
② 高血圧
・ 活動量低下は高血圧のリスクを高める。運動すると血管を柔軟に保ち、血圧を下げる効果がある。
③ 脂質異常症
・ 血液中のコレステロールや中性脂肪のバランスが崩れやすくなる。
④ 糖尿病
・ インスリンの働きが悪くなり、血糖値が上がりやすくなる。
⑤ 動脈硬化の進行
・ 生活習慣病により、心筋梗塞や脳梗塞などになりやすい。
(3)その他の身体的な影響
① 血行不良
・ 血流が悪くなることで、肩こり、腰痛、冷え性などが悪化する。
② 免疫力の低下
・ 適度な運動は免疫力を高めるが、活動量低下は免疫機能の低下につながり、感染症にかかりやすくなる可能性がある。
③ 消化器系の不調
・ 食欲不振、便秘、胃腸の働きの低下などがある。
④ 褥瘡(床ずれ)
・ 寝たきりなど、極端に活動量が低下した場合に、体の一部分が圧迫され続けることで皮膚の損傷がある。
⑤ フレイル・ロコモティブシンドロームの進行
・ 加齢とともに身体機能が低下し、要介護状態になりやすくなる「フレイル」や、骨、関節、筋肉などの運動器の障害で移動機能が低下する「ロコモティブシンドローム」を高める。
(4)精神的・心理的な影響
① 精神的疲労、集中力・思考力の低下
・ 脳への血流が低下し、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の分泌が抑制されるため、集中力や思考力が低下する。
② 気分の落ち込み、不安感、うつ病の増加
・ 活動量低下は、精神的な不安定さを引き起こしやすくなる。運動はストレス解消や気分転換に効果的であり、自律神経の働きを整える作用もある。
③ 睡眠の質の低下
・ 疲労感がなく、身体的な活動が少ないと、夜間の入眠が困難になり、睡眠が浅くなったりすることがある。
現代社会では、デスクワークが増え、交通手段が発達し、家電製品が普及するなどで、身体活動量が低下に陥りやすくなりがちです。健康を維持するためには、意識的に日々の生活に運動を取り入れることが重要になります。
3. 高齢者の心肺機能低下の改善方法
高齢者の心肺機能低下を改善するには、完全に「元に戻す」ことは難しいですが、生活の質(QOL)を高めることを心がけることです。
運動量を改善、生活習慣を改善、医療機関を受診と組み合わせます。
3.1. 運動量の改善(最も重要)
運動量の改善は、心肺機能を維持・改善するための最も効果的な方法です。無理しないで、継続的に行うことが必要です。
① 有酸素運動
・ ウォーキング、インターバル速歩、体操、ダンスなどがあります。
② 柔軟性・バランス運動
・ ストレッチ、片足立ち、太極拳、ヨガなど。
③ 筋力トレーニング
・ スクワット(椅子からの立ち上がりなど)、かかと上げ、つま先上げ、プッシュアップ(壁を使ったものなど)、軽いダンベルやペットボトルを使った運動。
3.2. 生活習慣の改善
運動量の改善と共に、生活習慣の改善も必要です。
① 禁煙
・ 喫煙は心肺機能低下の最大の原因の一つです。禁煙することで、低下した心肺機能を回復させます。
② バランスの取れた食事
・ 塩分を控えめにし、高血圧の予防・改善に努めます。
・ 野菜、果物、全粒穀物を多く摂り、良質なタンパク質も摂取します。
・ 肥満の場合は、適正体重への減量も心臓への負担を減らします。
・ 低栄養にならないよう、必要なエネルギーと栄養素の確保が大切です。
③ 十分な睡眠
・ 睡眠不足は心臓に負担をかけることがあります。十分な睡眠に心がけます。
④ ストレス管理
・ ストレスは心拍数や血圧に影響を与えることがあります。趣味やリラックスして、ストレスを軽減します。
⑤ 飲酒の制限
・ 過度な飲酒は、心臓に負担をかけます。
3.3. 基礎疾患のある場合
掛かりつけの医師の診断に従うことです。