25-36 無用の用とノーベル賞受賞者

 人が物事の価値を判断する一つとして、有用と無用で行うことがあります。
 有用は役に立つことで、無用は役に立たないことです。

1. 「無用の用」とは
1.1. 「無用の用」の意味
 「無用の用(むようのよう)」は、2,300年程前の中国の思想家・荘子(そうし)の考えです。
 その意味は、役に立たないものの中に、非常に大きな価値があるということです。

1.2. 「無用の用」由来『荘子』
● 荘子の著書『荘子』は「そうじ」と読みます。孔子の弟子の「曾子(そうし)」と混同しないようにするためだそうです。
① 『荘子』人間世篇の寓話「有用の用を知って、無用の用を知ることなし」
 山の木は、世の役に立つので自ら不幸を招く。
 木から灯の油が採られ、油は燃え尽きてしまう。木の根から採れる肉桂(にくけい)は食用になるので、切り倒される。木から採れる漆は塗料となるので、切り倒される。
 人は皆、役に立つことの必要性を知っているが、直接目に見えない油、肉桂、漆が大きな価値になることを知らない。

② 『荘子』逍遙遊篇の寓話「無用の大樹の活用」
 君は大木を持っていて、使う方法がないと悩んでいる。
 この大木を何一つない里や、広大な野原に植え、その木の側でぶらぶらするとか、木の下で昼寝をする。
 斧(おの)やまさかりで切り倒されず、害を加えられることもない。役に立たないことを苦にすることがないのだ。

③ 『荘子』外物篇の寓話「用なきを知って、始めて用を言うべし」
 無用ということを知って、始めて有用の意味がわかる。
 大地は広く大きい。人にとって用があるのは、足で立っている部分だけだ。
 もし、足で立っている外側の地面を無用だとして、地下深く掘り下げたとしたらどうだろう。
 人は、残ったそのわずかな土地を有用だと言うだろうか?

 荘子は、人が「無用」として意識しない広大な土地や空間の存在こそが、実は「有用」なものが機能するための基盤となっていると説いている。

1.3. 老子の寓話
 老子は、2,500年程前の中国の思想家です。
① 「有の利をなすは、無の用をなせばなり」
 有というものが世の中に利をもたらすのは、「無」という用があるからだ。この無の用とは、役に立たないもののことである。

② 車輪が動くには
 車輪は、車輪の中心にある太く丸い部分(ハブ)があり、その中心に車軸が通り、車軸から車輪の外側をつなぐ放射状の細い棒(スパーク)三十本からなりたっている。
 車の一番重要なところは、ハブでもスパークでもなく、ハブの中心部の孔である。無の部分である。そこに車軸が入るから、車は回転する。

③ 器の用とは
  粘土をこねて、茶碗や徳利などの器を作る。器の内部に何もない空間がある。それが、器の用といえる。

2. 今年(2025年)のノーベル化学賞受賞者の北川進さん
 北川進さんは、京都大学の名誉教授で、多孔性材料「金属有機構造体(MOF)」の開発による環境・エネルギー分野への貢献が評価されました。この材料は、脱炭素、創薬、半導体製造などに役に立つそうです。

 北川さんは、学生時代に湯川英樹博士の著書で「無用の用」を知り、研究生活の支えにしたそうです。
 論文を書いても注目されず、「常識に反する」と嘘つき呼ばわれされたこともある。
 幾度か大学を移り、揺るぎない信念をもって、研究し続けたそうです。
 常識に反することが非常識です。この非常識が「無用の用」となりました。

3. 自分の「無用の用」を考えてみた
 自分にとって、「無用の用」は、睡眠を十分取ることです。そうすれば、日中、居眠りせず、活動できるからです。
 睡眠をきちんと取ると、心身の疲れが取れ、翌日への活力を与えてくれると思います。