25-12 大相撲と漢詩

1. 大相撲の行司の軍配
 大相撲の三月場所は、大阪で行われます。
 今年(2025年)の三月場所は、豊昇龍は第74代横綱になった初めての場所で、途中で休場したのは残念です。
 千秋楽は、一月場所と同じ優勝決定戦が行われました。三月場所は、大関大の里が高安に勝って3度目の優勝を果たしました。

 テレビで大相撲を見ていたら、2年ほど前のことを思い出しました。
 ある行司の軍配に「及時當勉勵 歳月不待人」の文句が書いてありました。すごいと思いました。
 それから何日か経って近くの医院に行きました。その医院では診察室に上記の文句が手書きで掲げてありました。医師にその掲示物を指さして、いい文句ですねと話しました。医師は、大相撲の行司の軍配にあったので掲示して、自分の努力目標にしているとのことです。この医師は後期高齢者で元気で診察しています。

2. 文句の意味
 この文句は、今から1600年ほど前の中国の詩人・陶淵明の漢詩「雑詩十二首(其の一)」の三節の中にあります。先ず、節の原文(新字で)を記します。

 盛年不重来
 一日難再晨
 及時当勉励
 歳月不待人

 これをわかりやすいように「書き下し文」にします。
 盛年 重ねて来(きた)らず
 一日(いちじつ) 再び晨(あした)なり難し
 時に及んで 当(まさ)に勉励すべし
 歳月は 人を待たず

 この節の意味は次のとおりです。
 若く盛んに活動できる時期は、二度と来ない。
 一日の朝は、再び来ることはない。
 その時その時に一番ふさわしいやりたいことを、徹底的に取り組むことだ。
 時間の過ぎ去ることは、人の都合を待たない。

 時間は川の流れのように止まらず、常に時々刻々と進んでいきます。なすべき時になすべき事を、集中して精一杯努力することが大切です。
 機会を失わないことです。それには、、閃きなどの感じたことが自分の心を動かすかどうかによります。
 やろうとしたことについて、その実現に向けて取り組み続けることといえます。
 この三節は有名で、特に最後の二句は格言のように取り扱われることもあります。

3. 漢詩の魅力
 先ず、漢詩は漢字だけの詩です。漢詩の魅力を次の三つがあると思います。

① 詩の構想と言葉の選択
 漢字の文字数など制約の中で、伝えたい事柄、自然の情景、人間の感情、歴史的な出来事などを表わします。それには、言葉の選択によってどのような言葉を選び、どのように配列していくかが、作者の構想力と云えます。

② 作者の時代背景
 作者が生きている時代背景が大きく影響します。国の政治制度、政局の変化、突然の内乱などがあります。

③ 音の響き
 音の響きとは、中国語の発音による独特のリズムや韻律があります。
 前掲の漢詩は一句五文字です。各句を二文字と三文字に離して書きますと、次の通りになります。

 盛年 不重来
 一日 難再晨(しん)
 及時 当勉励
 歳月 不待人(じん)

 句の前部の二文字、後部の三文字が、一つの言葉となります。それによって、音の響きの違いが出てきます。
 また、二句の最後の字「晨」と四句の最後の字「人」の語尾は、「ん」です。「晨」と「人」は、同じ韻です。このように、偶数句の最後の文字は韻を踏む規則があります。